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1964年に制作されたサーフィン・ドキュメントの代表作『TheEndless Summer』。

Editing by Design Studio Paperweight INC

2021.05.10

コロナ禍の息詰まった日常から抜け出したい、これは誰もが願う事だろう。旅をしたい。長い旅を。例えば永遠の夏を世界中に求めるような…。55年前、そんな思いを本当に実行し、ドキュメンタリーフィルムに収めた男がいる。彼の名はブルース・ブラウン。そしてフィルムの中で数々の冒険を果たす出演者は、マイク・ヒンソンとロバート・オーガストという20歳前後の若者達だ。その輝やかしい記録は『エンドレスサマー』という題名で全米公開され、大ヒットを記録した。

1964年、ブルース・ブラウンはカメラ1台とサーフボード、『エンドレスサマー』のプロットだけを持って、未知の波を約3ヶ月に渡り探し求めた。途上国への困難な旅に伴うリスクを抱えながら、たった5万ドルという低予算で作ったにも関わらず、躍動感や旅情感、男の子だけが持つ冒険心への渇望をクールに写し出す。

私は冒頭の空港のシーンが好きだ。ダークなスーツを着て、ロングボードを持つ若者達のスタイリッシュさとその演出の妙。一大アドベンチャーにも関わらず、淡々とした演出も時折加わる自由な感性があり、そこに他のサーフフィルムとの大きな違いを感じる。「サーファーの究極の夢、それは“終わり無き夏”」を実現するサーフィンのシーンは、スリルと感動の連続だ。『エンドレスサマー』は続編もあるが、1作目の瑞々しさには勝てない。潮風が作り出す夏のピュアな瞬間を封じ込めた、正に旅先からの絵葉書のような映画なのだ。

若者達はロサンゼルスからアフリカ大陸に向かい、セネガルのダカール、ガーナ、南アフリカのケープ・セント・フランシスの完璧な波に乗った後、オーストラリア、ニュージーランド、タヒチ、そしてハワイの波でラストライディングを迎える。最高の波、誰も乗った事の無い夢のような波のうねりが、ただただ美しい。ブルース・ブラウンのナレーションは軽快でノリが良く、サーフィンが出来無い人でも、充分楽しめる作品に仕上がっている。そして、要チェックなのはファッションや小物、車等のデザイン。1960年代のアメリカは精神や物質等、生活全てに渡って豊かな夢が溢れていたのだ、と再確認出来る。ベトナム戦争の暗い影はここには微塵も出て来ない。

季節をきちんと感じられない程に新型コロナウィルス騒ぎに巻き込まれていたり、ぼんやりと生きている人には、是非観て欲しい。海に出てサーフィンをする事だけに限らず、終わり無き夏と波にきらめく光を持ち続けて人生を楽しむ事が出来れば、それも又サーフライフなのだ。『エンドレスサマー』が今も尚、人を惹き付けて止まないのは、本物の冒険と未知への純粋な好奇心が描かれているからだろう。海の時間を知れば、きっとコロナ禍や争い事や金銭が主体の生活も馬鹿らしくなり、流行などの記号的な消費を繰り返す自分を恥ずかしく思えるだろう。目標無くダラダラと日常をやり過ごす自分に疑問を持てるだろう。

夏は何度過ごしても何処かいつも懐かしい。匂いや色、全てのディティールが心の深いところに沈澱し、時折浮かぶ場面場面にひたすら胸が痛くなる。そうした不思議な感覚に惹かれる私は、夏が訪れる度に『エンドレスサマー』を観る。

Best Clip from "The Endless Summer"

出演:マイク・ヒンソン 、 マイク・ハインソン 、 ロバート・オーガスト
監督:ブルース・ブラウン
1964年/アメリカ/92分/原題『 THE ENDLESS SUMMER』

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