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『妹の恋人』。ほのぼのして登場人物も皆魅力的に描かれた素敵なヒューマン・ラブ・ストーリー。

Text & Illustration by Yoshimi Yoshimoto (Design Studio Paperweight)

2016.04.10

ぼくは仕事柄試写会によく行きます。どんな内容の映画であっても若い頃と変わらずワクワクします。学生の頃、美松映劇(もうありません)という京都は新京極近く映画館で、映写アシスタントや館内ゴミ拾いのアルバイトをしていました。看板描きのおじちゃんから切符売りのおばちゃんに至るまで、皆どんなに端役であっても映画関連の仕事に就いているという自負があり、さながら『ニュー・シネマ・パラダイス』のようでした(その話は又いずれ…)。ぼくもその「普通で素直な」気持ちを忘れないつもりで映画評を書いています。

さて、今回はジョニー・デップを取り上げてみましょう。まだ彼が海賊役などの当たり役を射止めメジャー映画で活躍する前の、とっても瑞々しい演技を披露する映画です。「どんな人にも、必ずどこかで誰かが特別な想いを持って、待っていてくれるのだと信じて欲しい」という願いを込めて作られた『妹の恋人』。アメリカの片田舎に住む兄妹と風変わりな青年の、ちょっとオフビートで、つたない愛を描いています。

両親を失ってから、精神を病んだ妹ジューンを守るためだけに生きてきた兄ベニー。まるで世間から隔離するように大切にしている妹との2人だけの生活は、風変わりな青年サムが突然現れた事によって大きく変わっていきます。妹が恋をするなんて考えてもいなかったベニー。そんな生きる事に不器用な3人が出す幸せへの答えとは…。

子犬がじゃれ合っているような可愛らしい恋を繰り広げるサムとジューンを演じているのは、若き日のジョニー・デップとM・S・マスターソン。デップは今では若手では無く立派な大御所、存在感ではピカイチですが、『妹の恋人』製作は1993年ですから、まだその独特の個性が確立はされていない。とは言っても、彼の主演映画いずれにも感じる役への入れ込み具合が垣間見えるメソッド性は既にあり、特訓と研究の成果が現れたパフォーマンスシーンは、観客が見惚れてしまうくらい素晴らしいもの。

そして、神経過敏で精神のバランスを欠いたジューン役にM・S・マスターソン。アイドル映画でデビューした彼女も又、その後のキャリアを決定づけた映画『フライド・グリーン・トマト』に通じる見事な演技力を披露しています。ジューンの描いた油絵の何作かは、実際にマスターソンが描いたものです。

そんな2人に振り回される妹思いのお兄ちゃん、ベニー役には演技派エイダン・クインが扮し、優しい眼差しや感情の揺れ動きを見事に表現し、物語を引き締めています。他にも『バクダッド・カフェ』で一躍有名になったC.C.H.パウンダー、ジュリン・ムーア、エイダン・クイン、オリヴァー・プラット等、実力派の俳優達が脇を固め、彼らを温かく見守る隣人として出演しています。

バリー・バーマンの脚本も素晴らしく、一歩間違うと湿っぽくなりそうなストーリーが、ほのぼのとした穏やかなものに仕上がったのは、名高いクラウン・カレッジ(道化師養成講座)を卒業し、ピエロになってアメリカ中を笑わせた経験のある彼だからこそなのでしょう。

男女の愛、兄弟愛、、師弟愛、隣人愛…「愛」にもいろいろありますね。でもどの「愛」も、自分の利益を優先せずひたすらに相手を想う気持ちが真実であれば、溢れる水のごとく言葉を並べなくても、きっと気持ちは伝わるはずだと、ぼくは思います。見終わった後、心が清々しさで満たされる『妹の恋人』は、そんな大切な事をさりげなく教えてくれる、温かくて優しいラブストーリーです。

STORY

美しい緑の木々や澄んだ川に囲まれたアメリカの田舎町。車の修理工場で働くベニー(エイダン・クイン)には、純粋で神経過敏なために精神を病んでしまった芸術家肌の妹ジューン(メアリー・スチュアート・マスターソン)がいる。12年前に両親を火事で亡くして以来、彼はそんな妹を自分の事よりも大切にしてきた。他人と上手くコミュニケーションが取れず、突然町で騒ぎを起こしたり、ストレスが溜まると発作的に放火等の問題行動を起こすジューン。そんな彼女に気が気でないベニーは、監視役にお手伝いさんを雇いますが長く続かない。遊びに行く事も出来ず、女性から食事に誘われてもジューンの事が気になり断ってしまうベニー。そんな彼を見かねて、友人のエリックやジューンの精神科医ガーベー(C.C.H.パウンダー)は、彼女を施設に入れるようにアドバイスするが、ベニーは妹の事を思うとその決心がつかない。

そんなある日、いつものようにベニーはジューンを連れて、彼にとって唯一の娯楽ともいえるポーカーのために友人宅へ出かける。たまたま兄の代わりにジューンがゲームに参加し、強気で賭けに挑むが見事に負けてしまう。負けたバツとして、2人はマイクの従兄弟であるサム(ジョニー・デップ)を引き取るハメに。殆ど喋らない、読み書きも出来ない、けれど、チャップリンやキートンに憧れているサムは、パントマイムや手品で自分の思いを打ち明けてくる。そんな彼に普段人見知りの激しいジューンが不思議と心を開き、彼女の顔には日毎に笑顔が増えてゆく。そして互いの琴線が触れ合った時、2人の間に恋が生まれる。しかし、それを知ったベニーは…。

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