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男に逃げられてばかりいる子持ちの離婚女性と手違いから同居するはめになった売れない役者が、結ばれるまでを描いたニール・サイモンの軽妙な都会派コメディ『グッバイガール』。
Text & Illustration by Yoshimi Yoshimoto (Design Studio Paperweight)
冬が近くなると思い出す映画の1つです。原題は『ニール・サイモンのグッバイガール』。かの有名な売れっ子劇作家ニール・サイモンが、実生活上の奥様であるマーシャ・メイスンのために初めて書いた脚本を映画化したもので、寒いニューヨークを舞台にした、ほろ苦く甘い1977年の物語。ちなみにニール・サイモンは生涯に4回結婚していて、マ-シャは2番目の奥様です。
監督は『愛と喝采の日々』のハーバート・ロス。30歳を過ぎているのに恋も仕事も上手くいかない子連れのバツイチ女性、という不幸のオンパレードみたいな状況にもかかわらず、明るくけなげに生きているポ-ラをマーシャ・メイスンは生き生きと演じ、この映画の演技でゴールデングローブ主演女優賞を受賞しました。
マシンガンのように粋なセリフをしゃべりまくるエリオット役のリチャード・ドレイファスは、1975年の『ジョーズ』に主演して脚光を浴び、『グッバイガール』で見事史上最年少のアカデミー主演男優賞を受賞します(ということは当時彼の年令30歳!貫禄があるというか、何というか…)。リチャード・ドレイファス自身高校時代から演劇を志し、明日のスターを夢みてオフ・ブロードウェイから映画の脇役をつかみ、今日のスターとしての座を手に入れたという経歴の持ち主。正にエリオット役にぴったりだった訳です。それもシェークスピア作品に出演していたというから、そんなところも同じなのですね。
主人公2人、それにクイン・カミングス扮するルーシー(彼女の名演技にはびっくり)の絶妙な会話もこの映画見どころの1つでしょう。ニューヨーカーらしい主張のぶつけ合い、クスッと笑わせる洒落た言い回し、実在の芝居や映画のセリフの引用(結構たくさんあるので探しながら見るのも楽しいかも)等、シチュエーション・コメディを得意とするニール・サイモンの脚本が見事です。
決して美男美女では無い2人が、大都会N.Yの片隅で傷つきながらも不器用に愛を育み、幸せを見つけていこうとする姿には、思わず拍手を送りたくなります。貧乏な2人がアパートの屋上でデートをするシーンがぼくは好きです。リチャード・ドレイファス演ずるエリオットが実にいい。貸し衣裳という設定での白いタキシード姿でフレッド・アステアを気取る彼は、素朴な愛らしさがあります。ラストシーン、デビット・ゲイツが歌う『GOODBYE GIRL』の美しいメロディーラインが、2人の未来を一層輝くだろうと約束しているように思えて、見終わった後も何だかとても幸福な気持ちでいられる。そんな70年代後半のN.Yの冬の空気が色濃く漂う、素敵な映画です。
■ストーリー
季節は冬、ニューヨーク西78番街。
33歳の元ミュージカルダンサー、ポ-ラ(マーシャ・メイスン)は娘ルーシー(クイン・カミングス)と出掛けたショッピング(冬のバーゲン)から帰ってきて唖然する。同棲中の恋人トニーが映画に出演するため(それもベルトリッチの!)イタリアへ行く、というメモ書きを残して、こつ然と消えてしまっていたのだ。泣きじゃくるポ-ラを「又か」という表情でなぐさめるルーシー。それもそのはず、ルーシーの父親でもある前夫もトニーと同じく俳優でポーラーを捨てていなくなってしまった、という過去があったからだ。傷つき落ち込んでいるポーラに、更にショックな出来事が起こる。何とトニ-が勝手にアパートの権利を友人に譲り渡し、ポーラが先払いしていた家賃を持ち逃げしていたのだ。冷たい雨の降る夜にやってきたその友人、エリオット(リチャード・ドレイファス)と名乗る男も又もや俳優。
追い出されては大変と先住権を必死に主張するポーラに、実際の借主であるエリオットは同居する事を提案する。しかしこのエリオットという男、全裸で寝るわ、真夜中にギターを引出すわ、明け方にお香をたき読経しだすわ…とかなり変わり者だったのだ。
かくしてポーラ、ルーシー親子とエリオットとの奇妙な共同生活が始まり、最初は言い争いばかりだったが、ある日ポーラが街で全財産をひったくられる事件が起こる。一文無しになったポーラに対し、当分の間面倒をみようとするエリオットだったが、その直後、彼が出演していた舞台が不評のあまり公演中止になってしまう。新聞や雑誌がこぞって辛らつな批評をエリオットに浴びせる。落ち込む彼を優しくあたたかく慰めるポーラ。次第に2人はお互いの存在を改めて意識し始め、そして恋におちていきます。
「今度こそ大丈夫なの?」
過去の経験から傷つき、恋に臆病になってしまった彼女は「グッバイガール」から卒業出来るのだろうか…?